2013年12月24日火曜日

クリスマス用ショートショート「ボーイズオンリー」

今回、クリスマス用にショートショートを書きました。誰も読まないと思いますが、一応初めに説明しておくと、今回のテーマは「男子校のクリスマス」(だったはず)です。
では、どうぞ



   ボーイズオンリー

「なあ斉藤、なぜ俺たちはこんな日に朝っぱらから学校にいるんだ?」
「ああ、それは俺も不思議だった」斉藤はため息をついた。「何でったって、クリスマスイブに学校に来なくちゃならねんだよー!」
「だよなー」
 と、上野は言った。
 今日は12月24日、すなわちは斉藤の言ったようにクリスマスイブだ。なのに、俺と斉藤、上野は2日前に冬休みに入ったはずの学校に来ていた。しかも、8時という普段より早い時間に。
「それは、お前らがこないだの期末で赤点とったからだろうが!」
 そんなセリフと共に勢い良く教室に入ってきた中山先生は言った。「俺だってお前らのために、こんな早くから起きてきたんだからな!」
「やはり、補習なんてやらない方が互いにとって有益です! すぐにやめて、帰りましょう!」俺は挙手して言った。
「あんな、これはお前らのための補習なんだよ。それに簡単に帰ればっつーがな、帰るのにも俺は1時間かかんだよ!」先生はプリントの束を俺らに配った。「これから、もう一度だけ基本から説明してやっから、プリントを見ながら理解しろ」
「「「はあい……」」」
 三人のため息交じりの返事がほとんど人のいない教室に響いた。



 一時間後、「俺は追加のプリント刷ってくっから、そのプリントの問題やっとけよ」と、先生が教室を出て行った。
「きっつー、これで三時までやるとか鬼畜だろ」
 と、最初に口を開いたのは斉藤で、それに俺と上野は続いて話し始めた。
「でもさ、この補習なかったらクリスマスイブったって家にこもってただけだしな~」
「そうそう、男子校の生徒にとってクリスマスイブとかただの平日だってのな」
 俺と斉藤はため息をついた。男子校はさみしいな……。
「そうだ、今日も去年みたいに、三人で盛り上がろうぜ」斉藤が言った。「場所はサイゼでさ」
「それいいな。正直、金はきついけど、行こうか。上野は?」
 俺はそう尋ねたが、上野は外を見ていて返事がない。「上野?」
「ん? ああ……、そうだな。行くべ」
 そう答えるも、どうも上の空だ。なにか悩み事でもあるのかも知れない。
 僕は斉藤を見て首をかしげるポーズをとった。
「もしかして、上野。去年突然消えた彼女のこと思い出してる?」斉藤は神妙な顔つきで言った。「お前、まだ……」
「仕方ないだろ。だって彼女は俺にとって始めての彼女なんだから」
「もう、忘れろよ。お前は捨てられたんだって。いい加減分かれよ」
「わかんねぇよ!」
「もう一年だろうが、諦めろよ!」
「ちょい、落ち着け。声が響いてる。中山さんに聞こえても困る」
 僕が堪らず間に入ると、二人はそうだな、と落ち着いた。
「んで、上野よ。彼女ってのはどういう了見だ? お前も彼女いない歴=年齢じゃなかったのか?」
 俺が二人を止めたのは、そこがよくわからなかったというのも理由だ。男子校は彼女いない歴=年齢が過半数を占めてる(と、信じたい)のだ。なので、当然俺と同じぐるーに属する上野もまたそうであると思い込んでいた。
「そうか、お前には話して無かったんだよな。実は去年、俺には彼女がいたんだよ」
「だけど、クリスマスイブを一緒に過ごす約束をしながら、彼女はクリスマス前にいなくなった、か?」
「え、なんでわかるんだ?」
 斉藤が驚いたように訊いた。
「だって、今日のこれからの過ごし方の話をしてる時に彼女のことを思いしていて、去年も俺らと三人で過ごしてたし、まあ、お前らの言動からすりゃ誰でもわかるって」
「やっぱお前頭いいよな? なんで補習なんて受けてんの?」
「そんたことはどうでもいいだろ? んで、お前はその彼女のことを引きずってると」
「……ああ」
「ってーことは、その理由さえわかりゃいんだな」
「まあ、そんなんだが」
「んじゃ俺が推理してやるよ」
 上野は怪訝な顔をした。
「そんなこといっても、上野が一年考えてもわからなかった理由が、当人に会ったこともないのにわかるのか」
 と、斉藤が上野の代わりというようにいった。
「客観的に話を聞いたらわかるかもしんないだろ? ものは試し、駄目元でその彼女のことで思い出せることを出来るだけ教えてくれ」
「ああ、そうだな……。一人でウジウジ考えてても仕方ないよな」上野は自分で言いながら頷いた。「彼女に最初にあったのは去年の四月の末だった。
 その日はたまたま夜の11時過ぎに外に居たんだ。
 そんで歩道の植え込みのところで吐いてる人がいたんだよ。
 その人が彼女でさ、一目惚れ。
 それで、介抱して、しばらく肩を貸して歩いたんだ。
 で、駅の近くまできたところで、もう大丈夫だって彼女が言うんで、別れ際に、メールアドレスもらったんだ」
「そいつは随分と積極的だな」
 俺は呆れてつい、言った。
「まあその時は、今もらわなければもう一生会えないかもって思ったからさ」上野は照れた。「で、次の日、メールを送ったんだ。内容は、ほら」
 と、見せてきたメールの文面をみると、
『件名:昨日の男子高校生です。
本文:おはようございます(^o^)
俺の名前は上野泰斗です。○○高校っていう男子校に通ってます。高一です。
昨日はあれから大丈夫でしたか?
出来れば、またお会いしたいです。』
 と、なっていた。
「──お前、いきなり個人情報暴露しすぎだろ」
「いやまあ、相手に警戒させないようにさ。で、返信がなかったから、また違うメールを送ったんだ」
 上野は次のメールを見せてきた。
『件名:惚れました
本文:実は俺、あなたに一目惚れしました。初恋です。
できることならもう一度あって欲しいです。
お願いしますm(_ _)m』
「おい、いきなりすぎだろ! こんなん送られてきたら、普通の女子は引くぞ!」
 と、斉藤が叫んだ。
「いやまあ、あのときは必死だったからさー。でも、それが功を奏してあってくれることになったんだけどさ」
 その時返ってきたメールだと、上野はまたケータイを手渡してきた。
『件名:Re: 惚れました
本文:わかりました。私もお礼がしたいですし、会いましょう。
いつが空いてますか?』
「脈ないな……」
 俺はつぶやいた。
「だよな……」
 斉藤もつぶやいた。
「で、会うことになってさ。彼女は石田結衣っていう大学生だっだんだけど、結衣さんと俺、話が合うんだよー。初対面なのに、まるで男友達と話してるみたいでさ、初対面でこんなに話が合う女子ってなかなかいないよなーって思ってたらさ、いつの間にか、交際申し込んでてさ──」
「「……」」
 俺も斉藤も声が出なかった。見た目はシャイなボーイなのに、意外とガツガツ行くんだな……。
「そんで、一週間待ってくれって言われて、一週間後、返事は『友達からお願いします』」
「どう考えても脈ないよな、斉藤……」
「だよな……」
「いやいや、それで何回か一緒に買い物とかしたりしてるうちに、結衣さんも楽しかったみたいで、付き合ってくれることになったんだよ」
 ずいぶんとうまく行ったものだ。それが五月末だと言っていたから、それから半年近く付き合ったいたことになる。
「で、確認だ。彼女の背格好とか、髪型とか、服装がわかるような写真はあるか?」
「えっと、プリクラなら……」
「プリクラだったらいいや。じゃあ、お前が思い出せる限り教えてくれ」
「背は、斉藤より少し低いくらいだったから、170弱かな。髪はロングの黒髪。服装は、スカートの頻度はほとんどはいてなくて、あとはジーンズがほとんどだったかな。上半身はあんま覚えてないけど、とりあえず、露出が多くない普通な感じ。それから靴は、ヒールなんかははかなくて、ほとんどスニーカーだったかな。そうそう、彼女はあんまり服装にこだわってないみたいで、いつもラフな感じ。その割に、俺の服を選んでくれたのはどれもセンスがいいんだよな―」
「お、おう」のろけられてもなぁ。「まあ、服装とかはいいや。キスとかはしたことあるのか?」
「え、いや、まあ、そりゃな」上野は恥ずかしげにそっぽを向いた。「隙を狙ってな……へへ」
「キス以上はないんだな?」
「ああ」
 告白は早かったが。そっちは早くなかったようだ。
「そのキスの時期は?」
 上野は渋い顔をした。
「……彼女が突然消える一週間前」
「それって、キスが原因だったんじゃね?」
 斉藤が口を挟んできた。
「でも、その一週間は普通に連絡が取れてたんだろ?」
「そうなんだよ。普通に会ってさ、クリスマスの話とかして」
「その時の結衣さんの様子は?」
「今思うと寂しそうだったのかもな……」
 まあ、主観的な話だから参考になるかは怪しい証言だな。でも、寂しそうだったのならば、別れを覚悟していたってことか。
「で、連絡が取れなくなってから、お前はどうした?」
「最初、いつも通りメールを送ったら、返ってきちゃってさ、それで電話したら、現在使われておりませんって」
「家にはいかなかったのか? それとも家の場所を知らなかったとか?」
「いや、前にアパートの前まで迎えに行ったことがあって、その時に二階の端から二番目だってのは確認してたから、行ったんだ。だけど、そこには岩沢って表札があって、一応インターホン押したら、大学生くらいのお兄さんが出てきたんだ。その人は前日に越してきたらしくて、前にいた人のことは知らないって」
「それで、俺に電話してきたんだな」
 斉藤が言った。斉藤はそこで上野の彼女のことを知ったらしい。
 俺は少し、思案した。あと、何を訊けば彼女のいなくなった理由がわかるのか──。
「上野、その彼女のアパートに空き部屋があったかわかるか?」
「ああ、あの時は必死だったからな。彼女の部屋の両隣は空き家だった。隣の隣の人は、前にいた人は知らないって言ってた」
 んー、なんとなくわかってきた気がするぞ……。
「最後に質問だ」多分、これを訊けば確信できる。「お前は彼女がトイレに立ったところを見たか」
「へっ?」上野は口を開けて十秒ほど止まった。「あ、ああ。えっと、そんなに記憶に残ってる訳じゃないけど、ファミレスでは行ってたのは覚えてるよ」
 ファミレスか。なら、俺の推理が当たってる可能性は高い。
「上野、多分分かったよ。結衣さんがお前の前からいなくなった理由」
「え! 教えて──」
「おーい、お前ら、課題やってたんだろうな?」
 上野の声を遮ったのは中山だった。もちろん三人とも課題なんてやってない──。
 そして、補習が再開された。




 ──午後3時。ようやく補習から解放された俺たちは、駅に向かって歩いていた。
「で、結衣さんがいなくなった理由、分かったなら教えてくれ」
 あれ以降、昼飯の時も中山さんが教室にいて話は出来なかった。
「そうだな。でも、俺の推理が正しかった場合、それは結衣さんの意思に反するんだよ。それでも聴くか?」
「ああ。聞かないと次の恋にも行けない。俺が一生童貞だったらお前のせいだぞ」
「わかったわかった」そんなものを俺のせいにされても困る。「んじゃ、単刀直入に言うぞ」
 俺は立ち止まり、二人もまた、立ち止まった。
「石田結衣さんという人は存在しない」
 ──時が止まった。
「はぁ? 何だ、お前は全部俺の妄想だったとでも言うのか?」
 上野は喧嘩腰で訊いてきた。
「いや、そうは言ってない。俺はあくまでも、石田結衣という名前の女性は存在しないと言っただけだ」
「偽名だったってことか?」
「まあ、当たらずともとおからずというか、半分正解」
「じゃあ、正解ってのは何なんだ?」
「答えは簡単だよ。お前が会っていたのは、石田結衣という名前の女性を演じる岩沢さんだ」
「岩沢……って引っ越してきたっていう!?」
「その岩沢さん。つまり彼女は女性ではなく男性だったんだ」
 斉藤は口を開けたままフリーズしている。
「オカマとか、女装癖のある男だったってことかよ?」
「それは違うと思う。彼女と最初に会った時、彼女は道端で吐いてたんだろ? その理由は?」
「そりゃ飲み会で飲み過ぎたんだろ」
「そう、飲み会だ。新入生歓迎会か何かしらないが、飲み会で女装ったら、もう鉄板だろ。まずウケるからな。現に、お前らだって学園祭で女装して、大ウケだったろ?」
「そうだな」上野は頷いた。「だけど、まだ女装と決まったわけじゃ……」
「まあ、まて。今から、根拠となり得る点を指摘していくから、聞いとけ。一つ目、メールに飾りっ気がなさすぎる。それに、『惚れた』なんて件名をそのままだ」
「いや、そんな女子なんていくらでも……」
「まあ、聞けって。二つ目、初対面で男友達のように話が合った。相手が男だったならば当然だ」
「……」
「三つ目、容姿や服装。身長170弱に、スカートはほとんど履かなくて、露出の少ない服装。ヒールを履かない。そりゃ女性モノは買いづらいだろうよ」
「……」
「四つ目、男物のファッションのセンスがいい。五つ目、最後に確認したトイレの話。本当は、トイレに立ったところを見たことが無いってのを期待したけど、ファミレスでも、問題はない。ファミレスのトイレってのはだいたい男女兼用だ」
「……確かに」
「そして、最後の決め手だ。突然いなくなった彼女の部屋に既に新たな入居者が入っていたことだ。流石にそんなすぐに入らないだろうよ。空き家があるくらいなんだからそんなに人気のアパートではないだろ」
「ああ、そうだな……」
「さらに、隣の隣の部屋の人は、お前がどう訊いたのかは知らないが、答えは『前の入居者の事は知らない』だったんだろ? 岩沢さんが入ってから、借主が変わってなかったなら、そりゃ知らないだろうな。そして、これらから導かれる答えは──」
「──彼女は岩沢さんか」上野は視線を外し、遠くを見た。「そんで、突然いなくなった理由は?」
「クリスマスが近づいてたからだろうよ。クリスマスったら、聖夜なわけだが、今では性夜と皮肉られるような日だ。相手は健全な男子高校生だ、そういうことに興味を持ってしかるべきだろ」
「しかも、俺は彼女の唇を奪った」
 俺は首肯した。
「岩沢さんは本当のことが知れるのを恐れて、お前から離れた」
「そんな……。俺はからかわれていたってことか?」
 上野は絶望したように言った。だが、それは違う。
「からかってなんていなかっただろうよ。本気でお前のことが好きだったんじゃないかな。じゃなきゃそっといなくなるなんてこと、しないだろうよ。盛大にバラして、反応を楽しむと思うよ」
 最初は、初恋だという上野を気づかってのことか、あるいはからかってたのかもしれない。だが、途中からは本気だっただろう。
「岩沢さん……いや結衣さんは、お前のことを思って、お前がキズつかないように、何も言わずに別れたんだよ」
 上野は何も言わなかった。言えなかったのかもしれない。
 結衣さんの意思を汲むならこれは伝えるべきことでは無かったかもしれない。
 結果的に上野は──
「俺、行くよ」
「え?」
「だから、俺、行くよ。彼女のところに」上野の意志は固いようだった。「去年のクリスマス渡せなかったプレゼントを渡さなければいけない」
「上野……」
「それにお礼も言わなきゃいけないし、それに……俺の気持ちは変わってない。行ってくる!」
 上野は走り出した。こうなったら、俺らに出来る事は、ただ一つ──
「上野、頑張れー!」
 俺は全力で応援する。




「でも、驚いたなー」
 ようやく喋れるようになった斉藤はそう漏らした。
「まあ、そうだろうな。女性だと思ってた人が男性だったなんて、驚きだよな」
「いや、それもそうなんだが、俺が驚いたのは、本当に話を聞いただけでその事実に気がついたお前だよ」
「まあ、それは単に、異性としか恋愛ができないなんてステレオタイプな発想から抜け出せるかの差だったと思うよ」
「ふーん。まあ、いいや、今年は2人でサイゼだな」
 斉藤は歩き出した。
 ──そう、俺は知ってるから。同性でも恋愛感情は成り立つことを。
 俺は斉藤の後ろ姿を見ながら、そう、思った──。
「でもさお前、そんなに頭がいいのに補習に来てんの? 赤点でもなかったし」
 ──そんなの決まってるだろ?
 俺は笑った。
 ──今年は2人きりだな。

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